【地質学から見るディズニーシー】プロメテウス火山の麓にそびえたつ石の柱「柱状節理」についてまとめてみました

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柱状節理東京ディズニーシーといえば、BGS(バッググラウンドストーリー)の宝庫ですが、「地質学の観点で見るディズニーシー」も、ぜひ注目してほしいポイント。

プロメテウス火山には専門家も泣いて喜ぶ、科学的根拠に基づいた精巧なこだわりが詰め込まれています。

今回はその中でも「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」を起点として、「地質学の観点で見るディズニーシー」を少しだけ深掘りしてみようと思います。

柱状節理に隠れたミッキー

柱状節理_隠れミッキー7月15日の記事「【激レア隠れミッキー編】マニアでも知らない隠れミッキーを探すTDSツアー完結編」で「柱状節理」に隠れたミッキーの紹介がありましたが、みなさんもうご覧になられましたか?

実は柱状節理のことは以前から記事化したいと思っておりまして……この機会に便乗して、めいっぱい柱状節理の話をさせていただければと思います。

柱状節理とは

柱状節理は簡単にいうと、溶岩が冷えて固まってできた「石の柱」です。流れ出た溶岩が冷える際に、体積が小さくなることで亀裂ができ、六角形の柱状になるのです。

なぜ六角形かというと、これが一番安定した形だからです。力の加わり方などが均一で安定するため、自然界では蜂の巣をはじめとするいたるところで、六角形のものを見ることができます。とはいえ、条件次第で七角形、八角形や、円に近い形にもなったりするようです。

また柱状節理は溶岩の表面から、まっすぐ直角にできあがっていくという特徴もあります。逆にいうと柱状節理などの形から、噴火当時に溶岩がどのように流れていたのかを推測することもできます。

切り出された柱状節理

こうして離れて見てみると、普段何気なく通っているここは柱状節理を切り出して作られた道だということがよくわかります。ハーバー側にもこんなにたくさんの柱状節理があったなんて……注目しないとなかなか気がつきませんよね。

写真の右下あたりを見ていただくと、切り出した柱状節理が乱雑に積まれています。切り出した石を再利用する予定なのか、はたまた面倒になって放置しているのか…ということを考えてみるのも面白いです。

さらにこの記事の最初の写真をご覧いただくと、風化によってくずれ落ちた柱状節理も確認することができます。芸が細かいですね。もちろん、実際のパークの柱状節理は崩れてくることはないので、ご安心ください。(笑)

柱状節理_床

さらにこの道を見ていただくと、明らかに周りとは違う石畳のような模様があります。これは模様ではなく、柱状節理を切り出してできたものなのです。みなさんがいつも歩いているハーバーの道が、実はもともと石の柱で埋め尽くされていたなんて、なんだかロマンを感じませんか?

柱状節理の太さ

柱状節理_床2

よくみると柱状節理は、それぞれ太さに違いがあることがわかります。柱状節理の太さは冷却にかかった時間によって決まるのですが、時間をかけて冷えた部分ほど太く、急速に冷えた部分は細くなるのです。

この写真のあたりは比較的細い柱状節理が集まっていますが、先ほどのハーバー側の柱状節理はかなり大きいですよね。

このように柱状節理や地質の特徴と、現在の姿を照らし合わせることで、何万年も昔のこの土地の形や歴史を推測することができます。

火山学者が推測する、プロメテウス火山の成り立ち

プロメテウス火山の成り立ち

引用:https://www.stc.or.jp/journal_sabo/pdf/SABOVol.89.pdf

実際にそのような情報を整理し、科学的根拠を持ってプロメテウス火山の成り立ちを推測した火山学者さんもいます。

上記は「砂防・地すべり研究センター」が発行している機関誌「sabo」の2007年1月号「映画・小説・テーマパークで学ぶ地震と火山」にて掲載されたものです。(詳細は砂防・地すべり研究センター公式サイトへ)

本文には「プロメテウス火山の精巧さは専門家が泣いて喜ぶ域」と記載されています。この言葉からも、プロメテウス火山は専門家も驚くほど、科学的根拠に基づき精巧に作られているということがわかります。

プロメテウス火山を流れるパホイホイ溶岩

センターオブジアース某番組で某パークオタク兼アイドルの方に紹介されてから、プロメテウス火山の溶岩が「パホイホイ溶岩」であることは、かなり知れわたりましたよね。(ちなみに、この時一緒に出演されていた火山学者さんが、前述のプロメテウス火山史を書いた小山真人さんです。)

このパホイホイ溶岩は玄武岩質というもので、これは柱状節理ができやすい性質だそうです。例えば安山岩質の場合は方状節理など、また別の形で固まることが多いとか。ここでもしっかり地質学に基づいて設計されているあたり、ときめきポイントです。

モデルとなったヴェスヴィオ火山とプロメテウス火山の違い

ヴェスヴィオ火山火口|引用:https://ja.wikipedia.org/

「パホイホイ溶岩=玄武岩質=柱状節理ができやすい」というところには感動しますが、逆に違いも少しあります。ここでプロメテウス火山のモデルとなった山を見てみましょう。

・名前:ヴェスヴィオ火山
・標高:1281メートル(富士山の三分の一)
・所在地:イタリア・カンパニア州
・溶岩質:フォノライト質
・火山活動形式:プリニー式
・火山爆発指数:5(どうしようないほど大規模)

パホイホイ溶岩はハワイで主に観測される溶岩ですが、ヴェスヴィオ火山があるのはイタリアです。プリニー式という火山活動形式も、パホイホイ溶岩の見られるハワイのキラウェア火山などとは異なる火山活動方式です。

また、キラウェア火山は日常的に小さく噴火してエネルギーを放出していますが、ヴェスヴィオ火山は数百年に一度、街を消してしまうほどの激しい大噴火を起こす火山です。さらに溶岩も「パホイホイ溶岩」と「フォノライト質溶岩」で、違う物です。

上記のヴェスヴィオ火山火口と、プロメテウス火山の火口を比較してみると、違いがはっきりわかります。プロメテウス火山の火口には黒光りしたパホイホイ溶岩が見られますが、ヴェスヴィオ火山にはそのようなものは見られません。

プロメテウス火山

しかし、パホイホイ溶岩とフォノライト質溶岩には共通点もあります。

・パホイホイ溶岩→シリカが少なめ、マグネシウムと鉄が多い
・フォノライト質溶岩→シリカが少なめ、ナトリウム、カリウムが多い

このようにシリカが少なく、マグネシウム、ナトリウムなどの金属元素を多く含む溶岩は粘性が低いので、この点においてはヴェスヴィオ火山、プロメテウス火山で共通しています。

おそらく溶岩の粘性が大きく違うと形成される山の形も大きく変わってしまいますが、この点はしっかり共通点を持たせることで、地質学上の矛盾がないようにしているのかもしれません。

これらから推測すると、プロメテウス火山のモデルは「全体的な形状はヴェスヴィオ火山」「溶岩や火山活動方式は、ハワイの火山」であると考えられます。

まとめ

プロメテウス火山横

いかがでしたでしょうか。「いかがでしたでしょうかって言われても……」と、置いてけぼりになっている方も多いでしょうか。

しかしプロメテウス火山へのこだわりは、これだけに終わりません。地層のこと、高山植物のこと、地熱やネモニウムのこと、センターオブジアースのダクトのことなど、まだまだ触れていないことだらけなのです。

さらに言うと、ロストリバーデルタの橋に見る発展の様子や、アラビアンコーストから見られる人々の生活様式など、ディズニーシーは各エリアごとに(時にはエリアをまたいだ)こだわりが山ほどあります。

それを知るヒントは「あれ、なんでここはこうなっているんだろう」という小さな違和感に目を向け、興味を持ってみることにあります。私が柱状節理を知ったのも「なぜこの道だけ石畳なんだろう」という、ちょっとした興味から始まりました。

ぜひ次にパークに行く際には、そんな「ちょっとした興味」と「新しい視点」を持ってみてください。きっといつもと違うパークの楽しみ方ができると思います。

(記事中のいくつか写真はみっこさん了承のもと「TDRな生活」より引用掲載しております。)